熊本市北区主催SCBイノベーション市民ワークショップレポート1

熊本市北区画像 熊本北区
  1. はじめに
  2. ワークショップ導入
    1. 自己紹介
    2. サポート役の紹介
  3. ワークショップ(フューチャーセッション)
    1. フューチャーセッションとは
    2. 問いの設定
    3. ステークホルダー
    4. 対話の重要性
    5. バックキャスティング
    6. まとめ
  4. 参加者アンケート結果

はじめに

【異分野イノベーション編集部】

疲弊した地域において地域創生や地域活性化を実現するためには、地域にイノベーションを起こす必要があるといわれています[1]。私たち、イノベーション創発による熊本市北区地域の活性化に取り組む学生は、2021年4月から熊本市北区役所と連携した取り組みを始めました。

熊本市北区役所は人材育成と地域活性化プロジェクト推進に力を入れており、人材育成では、職員や地域住民がイノベーション人材となり北区でのイノベーション創発プロジェクトを推進していくために、2020年から職員の方々が地域イノベーション創発の理論である地域コミュニティブランド(SCB理論)[2]をSCBイノベーションアカデミー[3]で学んでいます.また、北区の子どもたちを対象に最先端のプログラミング言語を学ぶPythonプログラミング講座を開催しています。

(これまでの学びや活動の一覧)
・2020年11月 北区職員5名がSCBイノベーションアカデミーに参加
・2021年5月 北区小中学生向けPythonプログラミング講座
・2021年12月 星合教授北区職員向けイノベーション創発講座

地域活性化プロジェクトに関しては、北区の15の課題から私たち異分野イノベーション学生グループが抽出した4つのテーマに基づいたプロジェクトが始まっています。

そのようななか、今回北区から、市民ワークショップを開催するにあたって一緒にワークショップを盛り上げてほしいと参加を依頼され、私たちも喜んでお引き受けしました。ワークショップに参加した率直な感想としては、北区にイノベーションを起こしたい、地域を活性化したいと考える多様な人々が多数いらっしゃることに驚き、今後私たちの活動に連携する可能性を感じてワクワクしました。

本レポートでは、株式会社フューチャーセッションズ代表取締役の有福英幸氏を講師に、2021年3月4日にオンラインでの開催となり、39名が参加した市民ワークショップの様子をお伝えします[4]。SCB理論のエッセンスをフューチャーセッションズが開発したイノベーションファシリテーター講座にベストミックスされた貴重な講座となっています。イノベーションとは何なのか?イノベーションを起こすには、どのような考え方が必要なのか?など、地域にイノベーションを起こすために必要なことを学んでいただけたらと思います。

[1]星合隆成, イノベーション創発~新たな価値観が地域を救う, 産経新聞, 2020.
[2]星合隆成, つながりを科学する 地域コミュニティブランド, 木楽舎, 2018.
[3]SCBイノベーションアカデミー, 
[4]株式会社フューチャーセッションズ, 

ワークショップ導入部

自己紹介

【有福】

改めましてフューチャーセッションズの有福と申します。

今日と来週、二回にわたって講師を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。(翌週はワークショップのため、レポートは今回限りの読み切りです。)

まず簡単に自己紹介をさせていただきます。

私は、フューチャーセッションズという会社を代表しておりますが、数年前からSCBイノベーションアカデミーでも、イノベーションファシリテーター講座をやらせていただいております。

私自身は、2012年にフューチャーセッションズという会社を立ち上げましたが、それ以前は、広告会社で企業のブランディングであったりサステナブルな世界を作るといったテーマのウェブマガジンを作ったりということをやっておりました。私自身が作りたい未来というのは、次世代が、現在よりも負荷を感じることのない、サステナブルな社会を作っていきたいと思っております。

イノベーションファシリテーター講座を始める前に、その母体となるフューチャーセッションズという会社について紹介させていただければと思います。この会社は、未来と接続するパートナーというコンセプトから、フューチャーセッションズという名前をつけています。2012年に立ち上げた後、フューチャーセッションという対話の場を地域住民や企業、自治体とともに構築し対話を通してより良い社会づくりをおこなう事業を進めてきました。つまり、対話を通して社会イノベーションを起こすことを目指して活動している会社です。

フューチャーセッションズは、色々な地域や企業の方々と共創プロジェクトをおこなってきました。ユーザーと一緒に商品開発したりとか、大学と企業をつないでより良い社会づくりを目指したビジョンの構築であったり、共同研究の活動であったり、まちづくりの活動であったりとか、あるいは企業が作ったものを実際に社会実装していくところ、市民を招き入れながらの活動構築をサポートするなど、さまざまな事業を行ってきました。

今回は、北区の方々はもちろん、それ以外の地域の方々もいらっしゃると思いますが、地域コミュニティブランドの理論を活用して、実際に参加されている皆さん同士が新たなつながりによって地域イノベーションを生み出していこうという、実験的かつ壮大な市民ワークショップになっていくことを期待しています。

この年度末のお忙しい中の貴重なお時間を皆さんとご一緒でき、嬉しく思います。今日は本当に関心の高い方々が集まっているのではないかなと思っていますので、既にもう何かしらおもしろことが起きそうだなという予感はあります。

今日はつながり方を学ぶということで私からの講義プラスミニワークショップといった形で進めていければと思っています。

そして来週は、「異分野とつながろう」ということで、既に皆さんの中でもつながっている方々もいらっしゃるかもしれないですけれども、新しいつながり方を学び、体験し、新しい活動を生み出していく、あるいは自分たちが今やっている活動の効果をよりアップさせていくという機会になればと思います。

サポート役紹介

【有福】

私は、SCBイノベーションアカデミーでイノベーションファシリテーター講座の講師をさせていただいておりますが、その受講生で今日サポート役として手を挙げていただいた方がいらっしゃいます。古市さん、簡単に自己紹介をしていただければと思います。

【古市】

はい、ありがとうございます。こんな機会を与えていただき、非常にわくわくしております。

私は、株式会社リボーンという建築設計会社の代表で、空き家の問題を解決するために活動しております、古市と申します。今日は、足でまといにならないように、アカデミーで学んだことを実践できるように頑張っていこうと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

【有福】

はい、ありがとうございます。かなり無茶ぶりの形で古市さんにファシリテーターとしてのサポートをお願いしているので、古市さんが何かしらミスをしても、それは古市さんのせいではなく私のせいなので責めるときは私を、また褒めるときも私を褒めていただけるといいんじゃないかなと思っております(笑)。

では古市さんもサポートしていただく形で、この二日間を使って、皆さんとわくわくする未来を一緒に作っていければと思っております。

ワークショップ(フューチャーセッション)

フューチャーセッションとは

では、本題の方に入っていきます。

SCB理論で説明されているのですが、改めておさらいしてみましょう。イノベーションのメカニズムについて最初にお伝えしておきたいと思っております。イノベーションとは新たな発想で新たな価値観を創出することと言われています。

もちろん、これは一般的に言われている技術革新というような話もあるのですが、単に新しい技術が世の中に出ていくとか、今までになかった技術が生み出されてということに限らず、新しい発想で新しい価値観を生み出すというところがSCBにおけるイノベーションの定義ということになります。

じゃあそのイノベーションっていうのはどう起こすのかといった疑問に対しては、新結合によって生み出すことができるといわれています。新結合ってちょっと難しい言葉ですけども、平たく言うと新たなつながりによって新たな価値観を生み出す。要は新しいつながり方をしましょうという話ですね。

これは、人と人、つまり人間同士ということもありますし、考え方と考え方、モノとモノ、みたいなこともあるかもしれないですね。

例えばベルトコンベアーと寿司を掛け合わせると回転寿司になるっていうようなことは、今まで回転寿司を見たこともなかった人からすれば、考えたこともなかったことですよね。既存のモノと既存のモノ、今までつながったことがなかったもの同士をつなげることによって新しいモノが生まれる、これは新結合です。

イノベーションというのはこの新結合によって生み出されるものだとSCB理論では定義されています。

その新結合は、ほっといても勝手に起こるわけではないので、どう起こすのかといった時に「場をつくる」ことが大事だと、つねづね私は言っています。この「場」というのはいわゆる集まる空間的なものであったり、今日のように会議みたいなものであったりもしますが、いずれにせよ多様な人たちが集って対話することが重要になります。これを私たちはフューチャーセッションと呼んでいます。

この多様な人たちによる対話を参加者同士、アイデア同士の新結合が起こりやすい方向に促す人が必要となるわけですが、この役割を担う人をイノベーションファシリテーターと呼んでいます。

このフューチャーセッションやイノベーションファシリテーターというのは私たちが定義している名称です。ここでは、新結合を起こすためには「場」が必要なのだということと、新結合を「促す人」が必要だということを覚えておいていただけるといいと思います。

その新結合を起こすための場であるフューチャーセッションってどういうものなのかについて、簡単にご紹介しておきます。 今回は、二日間にわたってフューチャーセッションのエッセンスをうまく盛り込んだ形の「場」を体験してもらいながら、新結合を生み出す体験を一緒にしていこうと思っております。ここでフューチャーセッションとはなにかについて説明すると、「新たな関係性で新たなアイデアを生み出して、そこで出会った人たち同士が協力して行動できる状態を生み出すための場」と言っています。

問いの設定

フューチャーセッションは、最初に問いを設定して、それに共感する人達が集まり、対話を通じて一人ひとりの中に気づきが生まれることによって、よし一緒にやっていこうという協調アクションが生まれるというメカニズムでできています。

最近はリアルで会って皆さんが集まる場をなかなか作りづらい状況になってしまっています。SCBイノベーションアカデミーでの講座もリアルでの開催を模索していましたが、結局オンラインでおこなわれる状況が続いています。そのようななか、オンラインでやることの良さやリアルでやることの良さをうまく掛け合わせていきながら対話の場を作っていくことが非常に大事になってきています。

フューチャーセッションっていうのは、単なる公開会議とかブレスト会議、ワークショップということではなく、多様な方々と創造的な対話を通じて多面的なアイデアをつなげるための共創プロセスだと言っています。そのために三つ大事なポイントがあります。

それはステークホルダーをちゃんと設定すること。対話のプロセスを重んじること。未来からバックキャストする思考、この三つが大事です。この重要性は、今日から皆さんがフューチャーセッションを体験してくことによって少しずつ理解を深めていってもらえると思っています。それではひとつずつ詳しく説明をしていきます。

ステークホルダー

私たちが大事だと考えているのは、多様なステークホルダーに対して、既存のシステムを打ち破る新たな形で(問いとして)投げかけることです。

単なる「考えさせるため」の問いかけということではなく、「新しいものの見方ができるかどうか」というところが非常に大事なポイントかなと思っています。

一例ですが、国民がこれから高齢化していくなかで、介護の問題は非常に大事な問題になってくるかと思います。このとき、家族が支援しやすい介護環境をどう作るかという問いを立ててみます。

これは非常にストレートな問いではあるのですけども、この問いだと多様なステークホルダーには伝わらないものです。「私には介護の問題は関係ないわ」っていうような方々が参加しづらい状態になってしまいます。そこで、我々は「新しいものの見方」という観点で問いを再設定したのです。介護の状態が悪いということではなく「介護を受けることになっても暮らしやすい街をどう作るといいだろうか」というように問いを設定し直したのです。そうすることによって「いや介護って言われても私は未経験者だし」とか、「まだ両親も元気だし関係ないわ」という人たちが、「まちづくり」と言われるとそんな遠い話じゃないなと思い始めるわけです。

企業にとっても「介護って言われても、うちの会社は福祉系じゃないので関係が薄いです」と反応するところが、まちづくりと言われると地元の企業が参加できるようになる。行政の方々も介護だと福祉課という部署が参加するのでしょうが、まちづくりになると市民協働など多様な部署の方々が関わることができるようになるのです。つまり、問いが変わるとステークホルダーがガラッと変わるわけです。

「良い問い」によって多様なステークホルダーが集まると、まさに色々な人達が自分ごとで話せる状態になると思います。これが、まさに新結合が起こりやすい状態が生まれているということです。閉じた場で、特定の人で、閉鎖的な考え方をするのではなく、少し見方を変えてより多くの人達と新しいものの見方をするだけで化学反応が起きる、そのような状態になることでイノベーションが起きる確率が高まるのです。

問いを変えることによって、いろいろな人達、企業、行政、学校などにかかわっていくことができます。

ここで一つ事例をご紹介したいと思います。

【動画】渋谷コレクティブ・インパクト ボッシュの電動工具を使った落書き消し by Bosch Japan

ご覧いただいた動画は、私たちフューチャーセッションズがさまざまな渋谷の関係者と取り組んできた一例[5]になります。

渋谷区では、壁の落書きが問題となっていました。そこでその落書きを消すために、何かいいアイデアがないかと関心を持つ人たちが、参加しやすく持っているリソースを出しやすい形にすることによって、落書きを消すことを苦に思うのではなく楽しいことだと思える活動が生まれました。

この渋谷の例などを見てわかるように、問いを考えるっていうこと自体がクリエイティブなことだと思います。問いを考える際には、自分だったらどう問いかけられたら、自分事ととらえ、関わっていこうと思えるかというように考えるといいと思います。

問いによって、関わる方々(ステークホルダー)が変わってくるのです。

[5]フューチャーセッションズ, コレクティブ・インパクト・ゼミ#1 〜渋谷の落書き問題を解決せよ〜

対話の重要性

二番目に大事なこと。それは対話が大事ということです。人達が考え方を変え、協調アクションを起こしていくためには、対話が大事だということです。

言葉のやり取りってたくさんありますが、私は会話の上に、対話があり、対話の上に議論があるというモデルでとらえています。「会話」という挨拶だったりちょっとした声掛け、言葉のやり取りがベースになっていると考えます。そして対話の上にある「議論」というのが、会社における会議、すなわち答えを一つに絞り込んでいくような、議論のやり方があります。一方、フューチャーセッションにおいて大事にしているのは「対話」です。この対話についてはさまざまな定義があります。我々は対話とは、問いによって自分の考え方をガラッと変えることができるものであったり、特定の問いやトピックに対してそのお互いの意見の違いを真に理解していき、相手に質問をすることによって相手の知性だったり思いを引き出していくものと定義しています。

それは、正解か不正解かというように白黒を付けるっていうことじゃなく、相手がなぜそういう言葉を発するのか、背景をきちんと理解し、相互に信頼環境を作っていくための言葉の交わし方と理解していただけるといいかなと思います。

今日の参加者の皆さんの中には、この「対話」を意識してやったことがある方もいらっしゃるかもしれないし、あるいは、今までやったことないなという方もいらっしゃるかもしれません。そこで、実際にちょっと対話のワークショップを皆さんにやってもらおうかなと思っております。

対話をする時に大切なのは、相手の話に対してしっかり傾聴するということです。そして、話し手の思いをちゃんと引き出していくことが大事です。ですから、このワークショップでは、話し手は自然に語っていただいていいのですが、聴き手は非常に大事な傾聴するっていうことをやらなければなりません。相手のペースに合わせてしっかり耳を傾けて聞き、共感を示すことが重要です。今回は、オンラインですから、なかなか目と目を合わせるっていうのは、難しいかもしれないですが、しっかりと相手を見て、「なるほど、なるほど」と、また「うんうん」とリアクションを入れていただけると良いかなと思います。

オンラインですから、リアルの時よりも倍ぐらいのリアクションで「なるほど、なるほど」とちょっと大きめに共感を示すとか、あるいは話を聞いていてふと感じたことを「なぜそう思ったのですか」とか、「その後どうなったのか」とか、「その時どういう気持ちだったんですか」というように、相手の話していることに関心を持って、より深く知りたいなということに問いかけてみる形でやっていただけると良いかなと思います。

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