熊本市北区主催SCBイノベーション市民ワークショップレポート2

熊本北区
  1. はじめに
  2. ワークショップ導入
    1. 自己紹介
    2. サポート役の紹介
  3. ワークショップ(フューチャーセッション)
    1. フューチャーセッションとは
    2. 問いの設定
    3. ステークホルダー
    4. 対話の重要性
    5. バックキャスティング
    6. まとめ
  4. 参加者アンケート結果

はじめに

2021年3月5日にオンラインでの開催となった市民ワークショップのレポートです。 イノベーションとは何なのか?イノベーションを起こすには、どのような考え方が必要なのか?など地域イノベーションを起こすために必要なことを学ぶことができたと感じます。今回は、その市民ワークショップの講師である株式会社フューチャーセッションズの有福先生の講演の後半部分をご紹介します。

前半部分はこちら

ワークショップ

バックキャスティング

【有福】

フューチャーセッションにおける大事なポイントの三番目っていうところです。未来からバックキャストする思考です。未来思考と言っています。

皆さんが新しいつながりを作って、何かことを起こしていこうという時に非常に大事になる考え方が未来思考だと思っています。皆さん未来を考えるっていうことを聞いたときに、会社に勤めている方は、例えば、これまでの実績とか昨年度の状況とか今年度はどう成果を上げてきたのかということを考え、そこから来年度の予測をするといったことを普段考えていらっしゃるのではないかなと思います。この未来を予測することは難しくて、予測に用いるデータの量や種類もどんどん増えてきていますし、経験みたいなのところもあるので、例えば天気予報でもちょっと先の明日あさってだったら当たるんだけど、一週間後とか一か月先のことになるとほぼ当たらないというような具合なわけです。これまでの経験とかデータなど過去側の事象を分析して未来を予測するということはフォアキャスティングという考え方ですけども、なかなか難しい。

じゃあどう未来を考えていけばいいのかって言うと、バックキャスティングという考え方を大事にしています。「未来にこういうことが起きてほしいな」とか、「こういう未来にしたいな」あるいは、「こういう未来が起こり得るじゃないかな」というような幾つかの未来を先に描いてみて、そこからバックキャストする。現実に戻って、その未来に向かっていくためには、「今からどういうことをやっていけばいいのだろうか」あるいは、「その未来がこうならないようにするためにも今からどう備えておけばいいのだろうか」というような思考のプロセスをバックキャスティングと言っています。

新しいつながりを用いて皆さんが何か新しいことを起こしていこうという時は、過去に経験がないとか、正解がないということの方が多いと思いますので、「自分達がどうしたいのか」、「未来こういう状態にしたいよね」というところを共通認識として共有して、そこに向かってどう一緒に共創していけばいいのかを考える、こういった考え方が非常に大事だと思っています。

このバックキャスティングについてお話しするときは、子供たちが持つ将来の夢の例が思い当たります。子供たちは将来何になりたいかと聞かれると「野球選手になりたい」とか「パティシエになりたい」とか、最近だったら「ユーチューバーになりたい」とか答えるわけですけど、そのためには今からどう行動していけばいいのか、そこまで考えて計画して行動する人っていうのはなかなかいないので、達成されなくて終わってしまいます。大谷翔平選手とかは、かなり以前からプロ野球選手として活躍していくために、今からどう行動していけばいいのかっていうところをバックキャスティングで考え、非常にポジティブな形で行動していったところがあります。ですから、是非皆さんも、一緒につながって未来思考で一緒に何かやっていこうと考えたときには、バックキャスティングの思考方法で考えていただくといいと思っています。しかし、これもなかなか難しいので、これから練習してみたいと思います。

ワークショップ 未来思考の練習

「2012年には想像もしていなかった、現在起きていることは?」

2012年の時点では想像もしなかったけど、10年後である2022年の現在、実際に起きていることはなにかということについて考えてみてください。

これはプライベートなことでもいいですし、仕事のことでもいいですし、地域のことでもいいですし、社会のことでもいいです。まさかこの2020年代になって、戦争が起きるなんて思いもしなかった・・・みたいなお話もあるかもしれません。身近なところでは、スマホがここまで普及するなんて思いもしなかったなど、色々あると思います。二人組で話してもらいます。先ほどの対話の重要性を理解するワークショップで練習した「傾聴」を忘れないでくださいね。互いに聴き合うというところが大事ですので、自分だけひたすらしゃべって終わっちゃうってことがないようにしてください。

異分野イノベーション編集部
異分野イノベーション編集部

【異分野イノベーション編集部】

この後二人組になり、Zoomのブレークアウトルームで、2012年には想像もしなかったことで現在起きていることを話す実践を行いました。続いて、2032年に起こっていることについてまた二人組になって対話をおこないました。

まとめ

【有福】

今日は問いが重要で、どのように問いを創ればよいのかというお話をしました。例として挙げた渋谷の落書きの問題では、問題に共感する人達がつながったのです。落書きは許せない!(怒)という思考で集まったわけではなく、落書き消しという課題を何か面白い形で解決していきたいなという問いを立て、面白い活動だな、参加してみたいなというように、この問題あるいは問いに対して共感する人達が集まり、そもそも自分たちではなく行政の課題であった落書き消しをみなで解決していこうよとアクションが生まれた例です。

つまり、共感するというのが非常に重要なのです。では、なぜ共感が大事なのか。

一般的に、問題をどう解決するのかを考えることに関して得意な方が多いと思います。答えを出すっていうのは、論理学的次元と学術的に言われているのですが、問題解決というのは最後の思考法であり、論理学的次元に属するわけです。この論理学的次元という最後の領域に達するには、最初の美学的次元、次の倫理学的次元を経ることになります[6]。

①美学的次元:感じ方⇒②倫理学的次元:問題設定⇒③論理学的次元:問題解決

[6]山口 純, 門内 輝行, 設計プロセスにおける論理学的、倫理学的、美学的次元の関係 - C. S. パースの規範学に基づく探究としての設計プロセスのモデル, 日本建築学会計画系論文集, Vol. 79, No. 703, p.p. 1881-1890, 2014.

③問題解決するにあたっては、②問題設定が大事であるわけで、問いを設定するという倫理学的次元の領域の話になるわけです。②で問題設定をどのようにおこなうのかによって③の問題の解決策は変わってきます。では、この②問題設定は何に依存しているのかというと、①美学的次元すなわち根本的な個人の感じ方に依存しているのです。①どう感じるのかを大事にしていくと、②よい問題設定がなされ、多くの人々の共感を呼び、よい問題設定がなされることによって③問題解決がなされる。逆に言えば、③いい解決をしようと思うと、②いい問題設定をしなければいけないですし、いい問題設定にしようとすると、①どう感じるのかというところを非常に大事にしなければいけません。

ですから、「落書きは許せない」っていう感じ方になると問題設定自体も変わっていたはずで、「落書きをさせないようにするにはどうしたらいいだろうか?」というような問題設定になると、条例を厳しくするとか罰則を作るとか、そういう解決策になっていったのだと思います。これはもちろん一つの解決策ではあると思います。しかし、より多くの人達がそこに参画していくのかというとなかなかそうはならないと思われます。渋谷の落書きの問題っていうのは、「落書きするのはやっぱり楽しいことですよ、それは分かる」という感じ方があって、それにもまして「消す活動自体ももっとクリエイティブにできるのではないかな」「落書きを消す活動をどう楽しくできるだろうか」という問題が設定され、そうしたことから解決策が「みんなでファッショナブルに落書き消しを楽しもう」ということになったわけです。どう感じるか、それによってどう問題を設定するか、それによって問題の解決策が変わってくるというところを皆さんも意識することで、今後の活動を考えるに際して、何を大事にしていくのか、どういうふうに感じるのかっていうところを意識していただけたら、良い解決策が生まれるのではないかなと思います。

この感じ方、問題設定の仕方、そして解決策という三段構造は、今後意識してもらいたいと思います。今回のワークショップでは、この共感される問いをつくるフレームを皆さんと共通の下敷きにしていきながら、練習していきたいと思っています。

共感される問いをつくるフレーム

①気づき⇒②ありたい姿⇒③問い(どうすればありたい姿になれるのか)⇒④仲間⇒⑤アクション

構造としては単純です。①気づき、要は問題に対してどのように感じているのかっていうところを皆さんで設定します。そしてそこから②問題が解決されてどういう世界を作りたいのか、どういう未来を作っていくか。そのためには、③どういう問いを設定するか、④どんな仲間の人たちと、⑤どんなアクションをしていけばいいのかというところを考えていくためのフレームです。これを皆さんと一緒に練習で使っていきたいと思っています。

先ほどの落書きの例をこのフレームに当てはめると、

①気づき:落書きは楽しいよね、だけど消す活動ももっと楽しくできるのではないかなというような感じ方っていいね・・・と。

そうすると落書きではない、アートにあふれた街にしたいなあ、そういう未来を作りたいよねというところの②未来像が生まれる。

そのためには、どうしたら落書き消しをクリエイティブにできるか、ファッショナブルにできるかという、③いい問いが設定されると。

その問いに対して、行政職員だけじゃなく企業の方とか市民とかNPOとか、あるいはこれまで落書きをしていたアーティストも消す方の活動の方が楽しいんじゃないかと思い直した・・・みたいに、④いろんな人たちが実は関われるかもしれないわけです。

そして⑤実際のアクションとして、かっこいい道具を用意して、チームユニフォームを提供することによって「落書きを消す活動がとてもいいじゃない」「そこに参加することって楽しそうじゃん」っていうような活動すなわち解決策を作っていく構造になったということです。

今回の市民ワークショップでは、皆さんが既に始めている活動とか、あるいはこれからこういう未来を一緒に作っていきたいよねというところをこの二日間で話しながら共創していきたいなと思っています。

異分野イノベーション編集部】
異分野イノベーション編集部】

【異分野イノベーション編集部】

この後参加された方々が現在取り組んでいる活動について、全員で話し合い問題を共有してもらいました。

次回は「異分野とつながろう」というプログラムでした。各参加者がZoomのブレークアウトセッションを用いて、5~7名のグループに分かれてワークショップをおこないました。大変意義深く、楽しいワークショップになりました。

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